社長メッセージ

大野社長の写真
国内外に拠点をもつ強みを最大限に活かし、企業価値の向上と地域共創の実現へ

はじめに

2024年5月23日をもって、代表取締役社長に就任した大野でございます。イオングループで小売業に長年携わってきた経験を活かすことで、当社を支えてくださるステークホルダーの皆さまとともに、地域の未来を築き上げていきたいという想いを強く持っています。
社会環境が変化する中、ショッピングモールの役割も大きく変わっています。将来にわたり、地域から必要とされ続ける施設となるために、人々の集う場であるショッピングモールが地域に提供する価値を新たな視点で再定義することが、社長としての私の役割であると認識しています。お客さま第一の視点を持って、イオンモールの企業価値向上に向けて、そして地域共創のさらなる発展に向けて、尽力いたします。

経営者としての価値観

まず、私が大切にしている価値観について説明させていただきます。
第1に「現場重視」です。お客さまやビジネスパートナーである専門店の皆さまと最も多くの接点を持ち、お客さまを最も理解しているのは、ショッピングモールの現場で働く従業員です。私たち経営陣が現場に足を運び、従業員から直接話を聞く中で、各モールの課題をどのように改善していくのかを一緒に考えていく、これを一つの大きな柱に据えています。そのため、いち早く国内外の各モールを回りたいと考えています。
第2に「小売り視点」です。商売をしているという点では、商業施設を運営するディベロッパー事業も、私が経験してきた小売業も根幹の部分は同じであると考えています。専門店の方々が、日々どうすれば売上や客数を増やせるかを考えているのと同様、当社もディベロッパーとして、どれだけ施設へ多くの集客を図れるかが重要なミッションです。また、その根底に安全・安心があるという点も同様です。
第3に「多様性の受容」です。多様なお客さまが来館するショッピングモールを運営する当社では、多様性を受け入れる風土を企業の文化として根付かせていく必要性を感じています。私が以前赴任していたマレーシアは、さまざまな言語、宗教、人種が入り混じる環境でした。相手と同じ目線に立って、相手の文化、風習をきちんと尊重し、多様な考え方やアイデアを掛け合わせて、新しいものを創るという経験をしました。現在、日本でも生活スタイルや行動様式、趣味・嗜好など、さまざまな面で価値観の多様化が進んでおり、多様性を受け容れることの重要性を浸透させていきたいと考えています。

課題認識

就任以来、国内外のモールに足を運び、現場の従業員からヒアリングを行ってきました。その際の気づきや現状の課題を説明させていただきます。
ショッピングモールの開発・運営という当社のビジネスモデルは、長らく成長を続けてきましたが、開業後、10年、20年を経過するモールが増えてきて、地域のお客さまが現在期待するものと、当社が提供してきた価値にずれが生じてきており、ニーズに応えきれていないと感じました。その意味では、ビジネスモデルそのものが転換期に差し掛かっていると認識しています。
モールを訪れるお客さまの客層を見ても、かつては30代の夫婦と子供2人といった、いわゆるファミリー層が中心でした。現在は、Z世代などの若年層やご年配のお客さまなど、幅広い年齢層や多様な価値観を持つ方々の利用も進んでいます。さまざまなお客さまが気軽に集い、時間を過ごせる場所になるためには、利用ニーズに適したモールへの進化、サービスの提供が必要です。それぞれの商圏を分析し、そこに集うお客さまを見ながら、どのように変えていくのか、それが最重要課題と捉えています。
国内の新規出店という視点では、国内マーケットは飽和状態に近づいており、モールの空白地帯において出店用地を確保することは難しくなっています。また、建築費の高騰が続く中、投資に対するリターンを確保する難易度が高まっていることも課題です。海外を実際に見て感じたのは、その変化のスピードの速さです。例えば、中国では、新型コロナ以降、キャッシュレスとオンラインの利用がさらに加速する等、消費環境が大幅に変わる中、モールに対するニーズは、買い物をするだけでなく、さまざまな体験を通じて充実した時間を過ごす場所へ変化していると強く感じました。今後は何よりもリアルの価値をいかに高めていくかという視点での取り組みを強化していきます。そして、オンラインを競合としてより強く意識し対策を打っていくとともに、モールとオンラインとの融合にもスピーディーに対応していきます。
大きく変化した時代とその環境の中で、当社が創る新しいモールはどのような形となるのか、既存のモールをどのように生まれ変わらせるのか、全く新しい視点でビジネスを組み直していくことが必要です。

イオンモールの強み

地域に拠点を持つ強み

当社は、日本に約160拠点(OPA含む)、中国・アセアンも含めれば合計で200拠点あまりのショッピングモールを運営しています。お客さまはもちろんのこと、そこで働く従業員や専門店企業の皆さまと膨大なつながりを有することを意味し、有形・無形両方の資産を持つことが当社の最大の強みであると考えています。これらの資産をいかに活用し、さらに磨きをかけていくかが重要であり、今後のさらなる価値創造への起点になるものと考えています。
例えば、当社は日本の専門店企業とともに、海外への進出を行っていますが、イオンモールが有するネットワークは国内だけにとどまりません。中国の専門店が日本に出店したり、アセアンの専門店が中国へ出店するなど、各国に拠点をもつ当社がハブとなり、国内外のネットワークを強化していくことが可能です。
人材についても同様のことが言えます。日本、中国、アセアンという拠点間の情報交換を増やし、そこで働いている人材の交流を活発化させることで、多様な視点から新たな事業を生み出したり、組織体制の強化に繋げていくことができます。これらは、巨大な拠点ネットワークを持つ当社だからこそ実現できることです。
また、近年の日本では、外国人観光客による国内消費が大きなビジネスチャンスになっています。中国やアセアンからの観光客の中には、イオンモールに慣れ親しんでいるお客さまも多くいらっしゃいます。そのようなお客さまが来日し、旅先で必要になる日用品やお土産の購入の際に自然とイオンモールに足が向くような仕掛けを、来日後ではなく、来日前の本国のモールで展開すれば遥かに効果的です。海外拠点との連携を一層深めることで、インバウンド需要を確実に取り込んでいくことができます。観光客の旅行先は、今後地方都市へも広がることから、地方に多く拠点を持つ当社にとってインバウンド市場はまだまだ潜在的な成長力が大きいと感じています。海外と国内、両方に拠点を持っている当社が大いに強みを発揮できる領域であると考えています。


拠点間ネットワーク

グループシナジーの中心にいる強み

当社は、小売業を中心とするイオングループの中で、商業施設の開発を通じて、事業機会を提供する役割を担う、いわばグループビジネスの中核となる存在です。その点で、グループシナジーを最大限に発揮できることは大きな強みとなります。モールというプラットフォームの上にはGMS※があり、金融・クレジットや施設の設備メンテナンスなど、イオングループの企業がさまざまな機能を提供しています。グループのリソースを活用することで、当社のさらなる利益成長につなげていける潜在的な機会は大きなものがあると感じています。
一方で、現時点ではグループシナジーを最大限に発揮できているとは思っていません。例えば、GMSと専門店側で異なる時期に活性化を実施するケースもありましたが、一つの施設として一丸となって新たな施設へと刷新をするからこそ、相乗効果を最大限に発揮できるのだと思います。また、金融との連携をさらに強化すれば、キャッシュレス化やグループ生活圏の構築も進めていけます。まだまだやれることは多くあると思っています。
※ 総合スーパー(General Merchandise Store)の略称。

ミッション

当社では2030年ビジョンを掲げ、それに至る中間目標として、2025年度を最終年度と する中期経営計画を進めています。取組方針として「国内外におけるリージョナルシフトの推進」と「ヘルス&ウエルネスプラットフォームの構築」を掲げていますが、当社の課題と強みを認識した上で、中長期の戦略や成長施策を具体的に示していくこと、そして中期経営計画の数値目標を着実に達成していくことが、社長としての私のミッションであると考えています。
当社は長期のスパンでビジネスを行う装置産業であり、将来を見据えて、どのような価値を作り出していくのか、長期的かつ具体的な視点で考えることが重要です。遠い未来においても、イオンモールがお客さまに支持され、人々が集う場であり続けるために、地域の未来に何を残していくべきか、今から考えて準備をしていかなければなりません。
開業してから年月が経過したモールをリニューアルする際には、その地域の環境やニーズの変化を十分に取り入れていく必要があります。もちろん、新規出店の際にも、お客さまの生活様式の変化を踏まえ、この先10年、20年先の将来に向けて、地域の皆さまから長く支持されるモールを作っていく視点が必要です。

私たちはLife Design Developerとして、地域のお客さまの生活に寄り添い、地域の課題に向き合い続けてきたという自負があります。現在、私たちは国内外に多くの拠点を展開していますが、それぞれのお客さまや地域ごとに課題を抱えています。お客さま、地域のことを最も知っている当社の従業員が中心となり、自社の利益創出だけではなく、お客さまの暮らす地域の社会的課題の解決にも取り組んでいきます。
例えば、地方では人口減少が進む地域が増える中、コンパクトで利便性の高いまちづくりを求める声が増えています。当社においても商業機能だけでなく、住居や病院、行政機能など施設の多機能化や複合化を検討していく必要があります。イオンモールが地域の発展に貢献するため、地域ごとの特性を踏まえながら、さまざまなパートナーと協力して事業を進めていきます。
海外においては、アセアン、特にベトナムの経済発展のスピード感に合わせ、新規物件の開発に注力していきます。地方政府との協力協定を締結し、出店スピードを上げていくとともに、既存モールについてもリニューアルを推し進めることで収益力拡大を図っていきます。
国内においては、中長期視点で投資効率を徹底的に追求し、既存モールのリニューアルや資産の有効活用を推進することで利益の最大化を図ります。施設環境を整備し快適な空間を提供するなど、お客さまへの提供価値の多様化を図り、新たな来店動機の創出と来店頻度の向上をめざします。これらの取り組みによって多くのお客さまにお越しいただき、ショッピングモールで過ごす時間を通じて喜んでいただくという商業の原点に立ち返り、国内事業の持続的成長を図っていきます。

新経営陣として取り組みたいこと

ここからは改めて、今後、新経営陣として注力したいことを説明します。
まず、1つ目は事業視点での国別のビジネスモデルの再設計です。これは短期視点と長期視点で分けて考える必要があります。
短期視点では、特に国内事業の回復が目下の課題でありますが、モールを巡回している中では、まだ伸びしろはあると考えています。今後、具体的な打ち手を皆さまに示していきたいと思います。一方で、一部ではありますが、継続してキャッシュ・フローを創出しない店舗があり、対策を講じても利益改善が見込めない場合は、本社が主導となり、抜本的構造改革を進めています。現状、当初の想定からは進捗が遅れていることは十分認識しておりますが、今期中には結論を出し、利益改善に繋げていけるよう危機感を持って進捗させていきます。また、国内、海外どちらにも言える事ですが、本社機能が肥大化し、コスト負担が年々増加傾向にあることも課題と感じています。本社機能のスリム化をはじめ、コスト圧縮策にも着手していきます。
長期視点では、現在の中期経営計画を引き継いで進めていきます。さらにその先にある会社の向かうべき方向性、戦略をどのように定義するか、これはビジネスの過渡期にきている当社にとって非常に重要であり、着任後すぐに社内で中長期戦略の議論に着手しています。大きな方向性としては、各国の戦略や投資配分を見直し、収益の柱である国内既存モールの活性化への投資を強化することで、課題である投資効率の改善を図ります。本年度内にかけて議論を行い、方向性が決まった段階で、改めて皆さまに説明する機会を設けたいと考えています。

2点目は、財務的な視点での投資効率の追求です。建築コストの高騰など社会情勢の変化もあり、新規出店を行う際には多額の投資が必要となるのは皆さまご承知の通りです。不動産の所有スキームで投資額を減らす等の対策は講じてきましたが、本質的には、利益創出できる物件に投資を厳選していきます。
また、株主の皆さまへの還元強化も課題の一つであり、そのためには、フリーキャッシュ・フローの黒字化が必要です。投資の選別とともに、最適なキャッシュ配分についても社内で議論を進め、皆さまに改めてお示ししたいと思います。

3点目は、市場との対話です。昨年1年間の株価パフォーマンスは、他のプライム市場の不動産企業と比較して低く推移しており、企業価値向上は私自身の大きな使命であると考えています。この数年間、公表計画に対して下振れが続いておりますが、単年ごとの業績計画を確実に達成することで、当社に対する信頼回復に努めていきます。
また、私をはじめ経営陣が、皆さまとの対話の機会を積極的に設けて、当社の戦略や課題をしっかりと共有し、皆さまからのご意見も伺いながら、市場からの要求に真摯に応えていきたいと思います。以上、3つの視点を踏まえて、今後当社の経営に取り組んでいきます。

最後に

投資家の皆さまとは、これまで以上に真摯に向き合い対話をしたいと考えています。特に業績計画の未達が数年間続いてきたことは、当社の経営上の大きな課題であると重く受け止めており、業績計画の達成にこだわった経営を行っていきます。また、新型コロナによって一時中断されていた海外ロードショーをはじめ、私たち経営陣が直接、投資家の皆さまと対話する機会を増やしていきます。
本年より新たな経営体制となり、社内では改めて中長期戦略の議論を進めています。投資家の皆さまに、将来にわたり持続的に成長し続けられる企業として、中長期的な戦略の道筋を早期に示せるようにいたします。
経営の全ての原点は、基本理念である「お客さま第一」の視点から、地域のお客さまが何を求めているのかを考えることにあります。国内外に多くの拠点をもつ強みを活かし、地域と共に発展することでさらなる企業価値向上に取り組んでいきます。

代表取締役社長
大野 恵司

詳しくは統合報告書をご覧ください。