社外取締役×証券アナリスト対談

社会の変化を機会と捉え、地域との共創を軸にパラダイムを転換し、既存事業のビジネスモデル改革と新たな価値創造に挑戦 社会の変化を機会と捉え、地域との共創を軸にパラダイムを転換し、既存事業のビジネスモデル改革と新たな価値創造に挑戦

当社の経営体制及び戦略における現状と課題について、
社外取締役と証券アナリストによるインタビュー形式での対談を実施しました。

指名・報酬諮問委員会の活動について

橋本氏:社外取締役には、経営を監督する役割が市場から求められています。腰塚取締役がイオンモールの経営監督にどのように関わり、経営陣をどのように評価されているのかお伺いしたいと思います。最初に委員長をされている指名・報酬諮問委員会の活動内容に関してご説明いただけますでしょうか?

腰塚氏:社長以下、各取締役の業績評価は指名・報酬諮問委員会規則に則って、期首に設定した個人タスク、KPIに照らして業績報酬の支給水準の妥当性と、各取締役の業績評価の妥当性の2点について社外取締役の5名が独立してそれぞれ評価し、その評価結果を突き合わせる形で行っています。経験上、各人の評価が一致することが多いです。最終的には社長ともすり合わせを行い取締役会に上程しますが、諮問答申案は、社外取締役評価を尊重していただいています。
評価方法の課題としては、VUCAの時代に、個人の努力の枠を遥かに超えた事業環境の見込み違いが発生した場合の評価について、現在は目標と結果の照会に基づく厳しい評価を実施していますが、 報酬制度がモチベーションアップを目的としていることに鑑みれば、本当にそれで真に公正なのか、株主目線の評価となっているのかという視点も踏まえ、また不測の事態に備え、評価期間を予め細かく区切るべきかなど、今後も議論を重ねたいと考えています。
この評価とは別に、指名・報酬諮問委員会では取締役候補となる人材に関してサクセッションプランや育成方針を議論し、あるいは直接面談して、視座を高めてもらうための助言を行っています。なお、昨年まで指名・報酬諮問委員会は社長の諮問機関でしたが、今期からは取締役会の諮問機関に変更しました。実質的な活動内容は変わりませんが、建て付けとしてより透明性、公正性、あるいは合理性が改善されました。

岩村社長の評価について

橋本氏:社外取締役としてイオンモールの会議に参加されているかと思いますが、岩村社長の評価については、どのように感じていらっしゃいますか?

腰塚氏:業績面では同業他社と同様に、2年ほど新型コロナに翻弄されたという現実があります。2022年度は、ようやく営業利益ベースでは前期比115%と復調の兆しが出てきたので、2023年度は社長の真価が問われると思います。一方で、国内外共通にイオンモール全体として、社長が牽引する形で「地域共創業」という方向性を打ち出せたのは、個人的に高く評価しています。地域共創業という視点でも、2023年度にどのように具体化し、どう焦点を絞り込めるのか、真価を問われる年になると考えています。
経営者としての評価ですが、虚心坦懐に申し上げると、未来志向のビジョナリストでありながら、現実を大切にできるリアリストでもあり、両面を兼ね備える希有な逸材であると感じています。私が見る限りにおいては、実力があるという意味で、生え抜きでもなくイオングループの出身でもない人材を社長に選択した理由がよく理解できます。特に、ディベロッパーとしてのビジネスセンスの良さを感じる場面も多いです。しかし一方で、海外事業責任者の兼任については業務負荷が大きすぎるので、できるだけ早く解消し、会社全体の改革に力点を移すべきと思います。

執行役員制度を導入した意義

橋本氏:イオンモールでは2023年5月に執行役員制度を導入しましたが、これに関してはどのように見ていらっしゃいますか?

腰塚氏:執行役員制度の導入目的は、経営の意思決定のスピードアップと幹部候補の育成が主たる目的ですが、もう一つ重要な目的として、中長期戦略の確実な実現があると考えています。会社全体の課題として、両利きの経営的に言えば「知の深化」比べて、「知の探索」の深堀りがバランスとして不足している側面があると感じます。取締役会の実効性評価においても、中長期戦略の議論に割く時間が少ないという反省があり、2022年度は経営戦略諮問委員会にて何度か中長期戦略について議論する機会を設けました。
当社の場合、いわゆるコンピテンシートラップのような新規が効率悪いから現業ばかり勤しむというような側面よりも、取締役兼執行レベルのトップ人材が現業に忙殺されて、中長期施策に時間を割けないという側面から、執行役員制度の導入に至ったわけです。したがって、執行役員制度の導入は権限委譲とセットで、取締役としての役割における力点を業務執行に偏るのではなく、中長期戦略の具体化に置いてもらうという意図があります。もちろん執行役員制度の導入には一長一短あるわけですが、管理階層が増えるという煩雑さを飲み込んでも、前述のメリットを享受したいと考えました。

社外取締役の役割意識とイオンモールの課題

橋本氏:社外取締役として活動される中で、経営の監督という視点では、イオンモールにはどんな課題があると感じていらっしゃいますか?

腰塚氏:「企業価値の向上と持続的成長を実現すること」が社外取締役の役割、もしくは取締役会の役割と認識しています。そこには守りの側面と攻めの側面があると考えています。つまり、公正性や透明性、合理性を担保して、コミットした事業成績・目標を果たすべくPDCAを回して経営を監督する、いわゆる守りのガバナンスという部分と、事業環境の変化を事業機会と捉えて果敢に挑戦し、企業変革できる環境を整える、要するにリスクテイクするという攻めのガバナンスの両面であると考えます。当然守りと攻めの両輪が大切ですが、VUCAの時代には、後者のような攻めの役割が大きいと考えています。したがって、先ほど執行役員制度導入の意義のところでも申し上げましたが、この「挑戦し変革する」という部分がイオンモールの最も重要な課題であると思っています。
2022年度は、経営戦略諮問委員会での議論や、次期中期経営計画の検討機会を踏まえて、企業変革の機運が出てきたと感じていますが、次の時代の競争優位性の確立やCSVストーリーの具体化は可及的速やかに成さなければならない重要課題であると考えます。
それらが見えてきた時点で、株主・投資家の関心事項であるPBR1倍以下などの企業価値の問題やROICをはじめとする効率性の向上の問題も解決されると考えますし、絶対に成し遂げないといけない事項です。
2つ目の課題は、情報発信です。イオンモールは脱炭素やサーキュラーエコノミー、生物多様性に至るまで、非常に多岐にわたり全国のモールで取り組んでおり、エシカルで善意な会社です。しかしそれを上手く発信できていないと感じています。活動の情報を発信して、ステークホルダーの共感、あるいはファンマーケティングにつなげるというのは、環境や社会に関する取り組みを持続的に拡大するうえで重要な要素であり、情報発信の強化は一つのポイントではないかと考えています。

イオンモールの中長期戦略について

橋本氏:中長期視点でのイオンモールの戦略に関して、取締役会では経営陣の間でどのような議論をされているのか、経営戦略諮問委員会における活動を踏まえて説明いただけますでしょうか。また、特に知見の深いDXの視点からどのように経営戦略への提言を行っていますか?

腰塚氏:中長期戦略については、2022年度から経営戦略諮問委員会や取締役会で活発に議論が行われるようになってきたと実感しています。異なる専門分野での知見を持つ社外取締役や監査役がさまざまな視点からアドバイスを行っており、経営陣との距離感を重視しつつも、フランクで活発な議論がなされています。
例えば、前職でDXや技術を専門的に担当していた私の事例を紹介しますと、経営戦略諮問委員会や取締役会で発言するだけでなく、直接担当部署の若手リーダーと対話をしたり、新たに就任した執行役員への講話を行ったり、異なる背景を持つ経験者として、直接考え方を共有し、議論するように努めています。イオンモールは、日本を代表して名だたるグローバル企業とメガコンペティションしなければいけない立ち位置にあります。イノベーションを仕掛けて競争優位性を確保するには、本当の意味で視座を高めて、未来洞察からバックキャストし、ビジョンを進化させ続ける必要があるとの考えからです。

少数株主保護の視点でのイオンモールのガバナンス体制について

橋本氏:上場子会社における少数株主利益の保護という観点から、イオンモールのガバナンス体制を社外取締役の立場としてどう評価されていますか?

腰塚氏:親子上場企業であるにも関わらず、社外取締役が過半数に満たないなど、いわゆる理想的なコーポレート・ガバナンスの形式基準に達していない点があることは認識しており、今後さらに議論を深めていきたいと考えています。その一方でガバナンス委員会や、指名・報酬諮問委員会、経営戦略諮問委員会をここ数年で矢継ぎ早に立ち上げ、2022年度にはガバナンス委員会を9回、指名・報酬諮問委員会を6回、経営戦略諮問委員会は12回実施し、厳格に運用してきました。ここ数年で、実質的なガバナンス体制を、公正性、透明性、合理性という観点から着実に強化してきたという自負はあります。もちろん、形式基準を整えることも重要ではありますが、実質が伴わなければ意味がないということも含め、一足飛びにはいかず身の丈に合った変革のスピードではありながらも、実質的な公正性、合理性は担保していると確信しています。

イオングループ間の取引について

橋本氏:アンカーテナントとしてGMSがイオンであることを含めて、グループ間取引におけるメリット、デメリットをどのように評価されているか、グループのシナジー効果が発揮できているか、社外取締役の視点からご意見を伺えますでしょうか。

腰塚氏:メリット、デメリットの両面があります。まずメリットですが、上場企業として独立したイオンモールにとって、GMSや、イオンカード、WAON、あるいはプライベートブランドのような、他のイオングループ企業の存在は、ワンストップ・ショッピングの機能を高めています。特にGMSについては、平日の大きな来店動機を創出しており、施設の集客力として非常に大きな強みとなっているのは事実で、戦略上の重要なパートナーです。
また、有事の際の防災拠点としての活用や、ワクチン接種、選挙の期日前投票などの会場提供といった社会的貢献も、グループとしてのスピーディーな意思決定やスケーラビリティがあってのものです。さらに、海外でのブランド力というのは、やはりイオングループを名乗ってこそ得られるものです。
逆に、各グループの企業におけるイオンモールの存在も同様で、それぞれの会社がグループのメンバーでありながら自立し、透明性、合理性、公正性を担保することがグループの発展、相互の成長につながります。グループ子会社でありながら、独立した経営を行うことは非常に大きな価値を生むものだと、私は認識しています。
また、巨大なグローバルのコンペティターと戦う上で、企業はデータとAIの活用の仕方次第で淘汰される、そういう時代になっています。イオン経済圏というグループとしてのコングロマリットメリットは、アジアをはじめグローバルで戦う上での非常に大きな武器となります。データが生命線となりますので、今後さらにデータやグループ総合力を活用し、新たな顧客価値や、デジタルイノベーションなどの具体的な競争優位性を生んでいかなければならないと考えています。
デメリットとしては、やはり透明性・公正性・合理性を、お客さま、出店者さま、株主さま等に対して担保し、丁寧に説明するということに相当な企業努力が必要になるということです。グループ企業を不当に依怙贔屓することや、圧力を掛ける、あるいは掛けられるような事態はないと認識していますが、常に目を光らせ監督する機能は、仮に取締役会メンバーに社外取締役が過半数を占める構成となった場合でも、継続すべきと考えています。

今後の展望

橋本氏:新型コロナ下でさまざまな課題が見えてきましたが、一方で、新型コロナが収束しつつある中、国内においてもマスクを外せる生活に変容するなど、お客さまの生活様式も正常化してきました。投資家から見て投資して良かったと思える会社になっていく、いろんな材料は戻ってきている気がするのですが、今後の展望についてお聞かせください。

腰塚氏:海外事業で重要なのはスピードです。国ごとの状況を考慮しなければなりませんが、利益拡大による成長は多分にあると感じています。国内事業についてはある程度全国にモールが行き渡ってきた中で、地域の圧倒的ナンバーワンのモールをめざして提供価値の深度化を図り、お客さまから支持を得ることで、商圏内でのさらなるシェアを獲得していく必要があると考えています。また、顧客ニーズが変わってきている中で、中長期戦略においても、郊外型モールの新規出店による拡大という、今までの勝利の方程式のままでいいのかという議論は必要であると認識しています。
当社は、2030年ビジョンである「地域共創業」をめざす上で、地域コミュニティの中心として地域に貢献したいと考えており、物販中心のいわゆる一般的な商業集積機能を提供するだけにとどまらず、地域のお客さまにWell-beingな生活を提供するLife Design Developerでなくてはなりません。したがって、本当にお客さまに必要なサービスや、あるいは地産地消の取り組み、再生可能エネルギーの提供、教育、あるいは職場の提供、防災拠点としての活用など、ショッピングモール単体でものを見るのではなく、ショッピングモールを中心とした地域全体を高い視座から俯瞰し、地域が抱える悩みや課題に対してどのような価値を提供できるのかを常に考えることが重要です。地域コミュニティの中心としてのイオンモールのあるべき姿をもう一度考え直すというのが2030年ビジョンの根底にある考え方です。経営としては海外では高スピードで成長領域を広げ、かつ着実に利益化していく、国内では、徹底的に圧倒的ナンバーワンの地位を確立していく、その攻めの姿勢を具体的に示し、投資に魅力を感じてもらうことが、イオンモールの株価回復ひいては企業価値向上に重要であると考えています。